IKIZAMA

新品の状態から自分の手で朽ちていくと所有者並びに、その物自体に自然と
雰囲気が生まれてくる。
よく男性は歳を取るにつれ、艶気が出てダンディズムが増すと言われる事がある。
それは僕が察するに、頬にシワがより、毛髪は白くなり、人との会釈も随分落ち着いた容姿になる事だと思う。

では物の場合はどうか?

ひび割れたコノリーレザーに、不動のサンルーフ、ガレージの床に付着したオイルはパワーステアリングからだ。
父の手元に来て27年。走行距離は約21万キロ。
1992年式、ワンオーナー、モスウッドグリーンのクラシックレンジローバーである。

雨がしとしと降る3月の日曜日
今朝仕事の所用でレンジのハンドルを握った。
ドロドロと唸る、ビュイック社製のエンジンにトランスミッションはZF社製4速AT
そして車重は2トン以上という点も相まってガソリンメーターは目視出来るぐらいの早さで減っていく。

全てが重たい動作で、決して現代の車と違って快適とは言い難いが
人口工学的にも計算しデザインされた、クラシックレンジローバーは
着座位置からのビューポイント及び、ボディ全体の重圧感から、飽きる事のない全てのDetailsが癖になる。

正にこれこそが必要不可欠にして全てが揃っていると言えるのではないか。

前をいく、セダンとワンボックスカーが何か競っている、白のクーペが急加速していった。
君はその羽根で宇宙にでも行くのか?
いったい何を生き急いでいるのだい。

例えがあまりにも冷酷だが
レンジに乗っていると、他車のドライビングスタイルが「全て小僧に見えるのだ」
自分がいきなり+30歳ぐらいの落ち着きを持ったような気にさせてくれる、不思議な魅力がある

しかし、市内を運転中ショーウインドウにレンジが映った姿を見て、一気に我に帰ってしまう事がある。
「艶気が乗り切っていない、27歳の小僧にはまだまだ早すぎる」
偶に感じるレンジからの視線でも同じ事を感じるのだが、それが些か運転しているドライバーにも伝わってくる。

どうやら父の手で朽ちていった、1992年式のクラシックレンジローバーに乗るには

自分の生き様をもう少し刻む必要があるのだろう。


Son

Son and Dad

ちょっとした日記です

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